今日は一日に一度の展覧会だ。
星屑展覧会。
いつもは人気のないこの道にたくさんの屋台が並び、キラキラ、キラキラ輝く星で作られた物たちがその上で踊る。
一つ一つの星達が、夜の闇を吸い込んでいく。それ以外の明かりがなくても、その道は光り輝いていた。
たくさんの人たちが、そのランプを手にとってみたり、覗いてみてははしゃいでいた。
でも皆知らない。星がしゃべっていることを。
みねは知っていた。そしてその星は、他の星たちに比べて、よりいっそう輝いていることも。
みねはどれが一番いいかわかるけれど、絶対にいわない。
星は一つ一つすごく値段が高くて、とうていみねには手が出なかった。
そして、その一番よい星は、他のものに比べたら安かったけれど、でもやっぱり、手が届かないものだった。
屋台の後の道がうすぐらく光っている。
キラキラ、ガラスのかけらがたくさん散らばっているような道を、たくさんの笑顔の中を、みねはかきわけていった。
途中、その星一つ一つに耳をかたむけながら。
この先は、アンティーク置き場である。
何人かの人が、ここで古くなった星を売買しているのだけれども、今夜ここにくるような人は誰もいない。
星はすぐ、古くなってしまうからだった。
いつもの顔見知りの人々が、かわらずにしんみりと生活している。
一番奥が、みねのお気に入りだった。
その中で特に埃をかぶって、もう星だったときの面影すらないような、丸い星。
「やっぱり、おまえが一番輝いている。」
以前草太にも話したことがあったけど、不思議そうな顔をされて、みねはショックだった。
一番の秘密を話したし、草太ならわかるかもしれないと思っていたから。
でも今は、一人占めできていいな、とも思う。
きっとこの埃をすべて取ってしまったら、このあたり一面は、これ一つでまぶしくなってしまうだろう。
そうすると、きっと誰もがほしくなって、どこかの知らない人が、買っていってしまうから。
シャラシャラ音がなる。
みねには聞こえる。
これだけは、まるで他の星が話し声ならば、笑い声みたい、みねは思う。
みねより少し大きい台に手をかけて、みねはじっとその音を聞いていた。
ふとそこに、声。
「何をしているのだい?」
「わっ」
そのまま眠ってしまいそうなほどうとうとしていたので、みねはびっくりして―そして、本当に、星がしゃべったのかと、一瞬思った。
けれど違った。店の奥、古いゆりかごで椅子と一体化したような、たくさんのしわを顔に刻んだ、おじいさんがいた。
「今日は年に三日間しか開かない、展覧会の日じゃろうて。こんな老いぼれた星をわざわざ見ていることはあるまい。」
みねはおじいさんが話するのを初めてきいた。今までみねがここに何度も足をはこんでも、死んでるみたいに、動いたことがなかったから。
「もう見たよ」
「もういいのかい?」
「うん。ここがいい。」
今ごろは草太が、草太の母さんと一緒に今年の冬あけ日に使う星種を探しているかもしれなかった。
星種は、物を星からつくるときにできるくず玉で、少しのあいだ灯篭として持つのだ。
「草太はみねのこと探しているかもしれないけれど・・・」
みねはおじいさんを見て、にっこりと笑った。
「おじいさん、初めてね、しゃべったの」
「おじょうちゃんは毎日のように、ここに来ていたね。」
「おぼえているの?」
「こんな古びた星を見にくるものは、そうはいないのさ。おじょうちゃんは何がめずらしくて毎日ここにきているんだい?」
「これ」
みねは埃で丸くなった、自分の両手にすっぽり収まる程度の一等の星をさした。
夜が暗かった。少し離れたところはあんなにも輝いているのに、今ここはおじいさんの顔を見れないくらいに暗い。
「おじょうちゃんは、どこからきたんだい?」
星を、おじいさんがやさしく持ちあげた。
「草太のお家よ。」
「ご両親は?」
「わからない。」
みねは首を横にふった。みねの、ずっと長いあいだ着ている服が、色をおとしたように、汚れていくように、おじいさんには見えた。
それはよく見ると、あちこちほつれてすすれていた。
「みねはあのとおりにすてられていたの」 光り輝く道をみねは見つめた。
「おばあさんが拾ってくれたのだけれど、おばあさんも死んじゃったから、草太のうちの子になったのよ」
草してまたおじいさんの顔を見たみねの顔は、少しもかわったところがなかった。
「淋しくないわ。みねは、しあわせだから。」
今までに、何度も言った台詞のようだった。
けれどそれがウソでもないと、おじいさんをまっすぐ見つめるみねのひとみが言っている。
「そうか・・・。じゃあよいこのおじょうちゃんにはこれをあげよう。」
「えっ」
「おじょうちゃんは、星の子だ」
おじいさんが片方の手でみねに両手をさしださせ、その中にそっと星をこぼした。
みねの手の中でいっそう、笑い声がしたような気がした。
「おじょうちゃんは、どうしてこれをほしいと思ったんだい?」
「えっ―それは・・・」
手の中の星は、埃だらけ。
「おじいさん、みね、本当にこれもらっていいの?あとで、返せって言わない?」
「ああ。言わないよ」
「それなら・・・」
みねはすうっと深呼吸した。自分の心臓の音が聞こえて、笑い声とかさなりそうだった。
「みね、これが一番光り輝いている星だと思うわ。だってみねには聞こえるんだもの。星が笑っているのよ。」
おじいさんは、何も言わなかった。
「本当よ。光り輝くものほど、その声が大きいの、きっとこの星は、空に輝く『星』よりも、光り輝くわ!」
高い空。
みねは見上げた。
草太のときみたいに、おじいさんもわかってくれないの?
その時―
ピカッ!
「わぁ!」
みねは、悲しくなったのも忘れた。
一瞬、空が明るくなった。
流れ『星』。大きな流れ『星』が流れたのだ。それは月よりも大きく、長い尾をひいて山の向こうに消えた。
「おじいさん、流れ星よ!」
おじいさんも空を見上げていた。
みねは辺りを見回した。胸がまた高くなりだした。今の光をみんな見ただろうか?なんて光だったんだろう。
けれど通りは光の渦で、今までとかわらない喧騒がみねには少しひっそりとして見えるだけだった。 誰一人、空など見上げていない。
どうして?と思ったみねの肩に、おじいさんの年を刻んだ手がおかれた。
「星の光が強すぎて、空の『星』の光に気づかなかったんじゃよ」
「そう・・・」
みねはがっかりした。草太にも、今の流れ『星』を見てほしかった。
「星は謳っているんじゃろ」
唐突に、おじいさんがいった。
「謳?」
「そう。わしはそうきいた。」
「誰に?」
「そいつにじゃ」
みねの手の中の丸い星。
「おじいさんも聞いたの?」
細くなったおじいさんの目は、どこを見ているのかさっぱりわからなかった。
「―おじいさんはどうして、この子を売るの?」
みねはうつむいた。なぜって、おじいさんの顔がすごく淋しそうに見えたから。
手の中の星が、小さくふるえたから。
きっと―
「わしはもう行かなければならないからの・・・」
どこに?ときこうとしたみねの頭を、優しくなでて、
「こいつは淋しがりやだから、家族が必要なんじゃよ。本当に、こいつの価値がわかるものがの。どうじゃおじょうちゃん、
おじょうちゃんはこいつの子供だよ。今日からこの星がおじょうちゃんの家族だ。」
星がもう何度も、みねの手の中で震えている。
おじいさんとのお別れに―・・・
みねとの新しい生活に―・・・?
「みねの家族・・・?」
おじいさんがもうおいきとでもいうように手を振る。みねは光り輝く道ではなく後ろにある階段をのぼりはじめた。
手の中があったかかった。
十段ほどほど階段を上がっただろうか、みねははっと後ろを振り返った。おじいさんがみねを、星をみおくっている。
みねはかけだした。
「おじいさん!おじいさんも、星の家族なのよね!」
「あ、ああ」
おじいさんはうなずこうにも、飛び込んできたみねの勢いをうけとめるだけで精一杯だった。
「それなら―それなら、おじいさんは、みねのおじいちゃんなんだよ!」
結局みねを支えきれなかったおじいさんは、しりもちをついた。
空には、満点の『星』空。
「おおおおおおおお?」
しわがれた手が、みねの体に回された。
みねの小さなベッドの中で、その夜おじいさんはたくさんの話をみねにした。
空飛ぶクジラ。羽をもった人間。天地がひっくりかえった話。巨人のお話。
みねは初めてきくお話ばかりで、その中に入り込んだようにいろいろ想像した。
「これらはすべて昔本当にあったことだったんだよ」
おじいさんはいった。
みねは、自分がそこで生きていたらよかったのに、と思った。
それからも、おじいさんは本当に誰も知らないような話をした。
そして最後に―星の話しをした。
「わしらは皆、『星』の生まれ変わりなんじゃよ」
「生まれ変わり?」
白いシーツの上で、みねは丸くなっていた。
「そう。子孫、かもしれない。昔々、わしらの先祖は、あの遠く光る青い『星』から、この大地を目指してやってきた
といわれているのじゃ。この大地もまた、青い『星』から見ると『星』であった。
長いときをかけて『星』にたどりつき、そうして気が付いたのじゃよ。わしらは、空に浮かべ『星』の一つ一つをここに持っているんじゃとな」
「ここ?」
みねはおじいさんがしたように自分の胸をさした。
「そう。みねが心で星とお話しができるようになるのも、あとすこしじゃろう。誰もが持っているのじゃ。
そのむねに輝く、星を、な。そうしてそれに気づかずに・・・」
「気づかずに・・・?」
「いつしか皆、忘れていくのじゃよ。」
おじいさんがみねの頭をなでる。「・・・みね、どうか・・・」
みねは、自分の目をこすった。すごく眠くなって、目を開けているのがやっとだった。
「どうか、その輝きを忘れないでおくれ―・・・星の子よ・・・」
ガタン!
すごい勢いでドアが開かれた。つよい風が吹いて、みねの部屋をおよがせた。
にもかかわらずみねはすごく眠たくなって、そのままねむりにおちていく。
一陣の風がおじいさんをさらって、いつのまにか開け放たれた窓から、光が空に昇っていった。
みねは、夢の中でそれを見た。
目覚めると、窓もドアもきっちり閉められて、ベッドの上にはみね一人だった。時刻は、まだ真夜中。
「みね!」
草太の声が下からひびいた。
窓が遠くで、展覧会が開かれているのが見えた。
−おじいちゃん、のどからでかかった言葉をみねはのみこんだ。
おじいちゃんはいってしまった。
きっと『星』になった。
まるですべてが、夢だったような。
けれど、室内が明るい。机の上に、埃がぬぐわれた星が、光り輝く。
そしてあたたかく、みねに呼びかける。
「みねは―星の子だよ」
みねはまぶしい星に一つキスをおとした。
と、その時、草太がすごいいきおいでドアをあけた。
「みね!みねはみたよな!」
草太が興奮していった。
「さっき、でっけえ『星』が向こうの山のほうに流れていったんだ。みねも見たよな!」
みねはうれしくなった。草太も、草太も見ていた。
草太もきっと、忘れていない。
「皆、幻だっていうんだ。なぁ、見たよな!」
草太はほほをふくらませた。反対にみねは上機嫌で、
「みねも見た!」
「なーっ!あっ!おい!」
草太に抱きついた。
「みね?や、やめろよ。・・・おい、どーしたんだ―?」
なんでもないよ、みねの言葉が風に乗っていく。
見上げなくても、世界には星があふれていた。