おわりというなのはじめ 1

 大崎くんとは、送ってくれた家の前で別れた。
「ごめん。もう、やってけないんだ」
 ―うん。
「元気でな」
 ―うん。
 今朝方ふった雨の忘れ物は、手に残った一本の小さな傘。
 ビニール傘に描いた照る照る坊主が、跡形もなく消えてしまったその日。
 ふと、丸まった背中もすこし骨ばった大きな手も、いちどだけぎゅってしてあげたくなった。
 滝高さんは「大崎くん」とさよならをした。

 ごろごろしていた。
 タオルケットを胸にだいてごろごろごろごろ。
 白い室内は控えめな家具しておいていなかったので、
 フローリングの床をごろごろした。
 しぃんとして
 まるで世界のブレーカーが落ちてしまったかのよう。
 無機質な冷蔵庫の電子音が抑揚を持たずに静かな空間を裏づけしている。
 ほんのたまにお気に入りの窓を、
 白く赤い光の玉がとおりすぎて消える。
 窓はほんの少しで窓になっていて、「フラワーなんとか」と呼ばれている。
 この部屋にはお花さんはいらっしゃらないが、
 ベンジャミンさんがひっそりと葉を広げている。
 高台にあって大学にも(近道を使って)近いこのアパートは
 大崎くんもお気に入りだった。
 ごろごと。
 かすかな物音がして。
 隣の若夫婦の出勤を告げる音。
 かすかに同じ間取りの出窓が閉じられる音がした。
 出窓から、空が見える。
 どんよりと薄暗いそら。
 雲さえ、空に染められて。
 ぽつぽつと静かに降り出した雨は
 静かに大地にふりそそぎ―

 それはやがて…