新入生が講堂に入り終え、静かに入学式が始まるとともに、
集まった在校生は散り散りに自分の場所へと戻っていった。
大路地から人が引けるのを待って、滝高さんも戻ることにした。
配布された紙が、そこら辺いったいに散乱して、
目も当てられない状態だというのに、千歳はなぜかとても上機嫌だ。
千歳だけではなく、在校生全体の雰囲気春の気配に操られているかのように、
陽気で、滝高さんには少しまぶしい。
二人の部室は少し遠くの辺鄙な場所にあり、
だからこそそれほど知られてない部であるから、こういった入学式などは
毎年2年になったばかりの前・新入生が部員を集めようと狩り出されているのである。
山岳部、と大きな木の板に大文字で書かれたそれは、
もう何代も前のOBのかたがたの手製の品だということだけが伝説で語られている。
「やほ。入学式、始まったみたいだよー」
「お疲れ様ですー」
振り返ったのは、同学年のしなひだくんだ。
科日田くん、とかく。眼鏡をかけていて、身長は滝高さんよりも少し高いくらいの160cm。
「こっちもちょうど終わったところだよ。」
机の上に刷り上ったばかりのチラシの束。
「今年も大量だねぇ」
暗幕を引いた後ろから、噺家くんがでてくる。顔にうっすらと墨をつけて。
「あー神経使う」
しなひだくんが冷たいお茶を私と、千歳に渡す。
噺家くんには熱いお茶を。円形の椅子に腰掛けてお茶をいただいた噺家君は、
チラッと壁掛けの時計に目を走らせたあと、眠そうにあくびした。
「今年は何人の新入部員が入ってくるかねぇ。」
「去年の僕らみたいに、何人か来ても、残るのが三人かもしれないよ。」
「ははは、三人残れば上等だよ。」
「先輩のときは、先輩一人でしたね。」
現・三年は噺家くんのみである。
千歳がくすりと笑った。
「そいえば、英文なんていったらこう、
インテリばっかりじゃないかって私思っていたんですけれど、
今日は新入生で飛びぬけてガタイの大きいのがいたんですよー。たきたか、覚えてる?」
滝高さんはさっきの、頭ひとつぬきみでた男を思い出す。
「入学式なのに、一人だけよれよれの服を着てたんですよー。目に付きますってあれ」
わたしもおぼえてる、と滝高さんはつけくわえた。
「この狭い大学だからね。もう明日には、そいつの名前もはいってきそうだ。」
鐘がなって、噺家くんが席を立つ。
「俺はささっと現像の続きするから、
女性陣は引き続き勧誘を頼んだよ。」
「はーい。噺家さん、この間の富士山行ったときの写真を
現像しているんですか?」
「そう。4年生引退追い出し登山。」
手袋をはめながら、噺家くんが答える。
今年の二月、卒業式の前週にみんなでいった登山。
登山部は4年生卒業とともに、次に四年生である3年生も追い出しを
することが通例となっていた。
「できあがったら、取りにきなさいな。」
いいながら、暗幕の向こうに消える。
滝高さんの胸が、またきゅっとした。
大崎君と、一番最後に行った登山だった。
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